ゆるくだらだらとその日思考を書き殴ってます。
たまに痛い発言や小話が飛び出すこともあり。コメントはご自由にどうぞ。
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雨を厭う人間が圧倒的に多いのは、足元が濡れる、気分が重くなるなど様々だ。
これはあくまで思考論の話だが、雨は不透明な未来と告示しているからかもしれない。
ぼやけて見えない先、重くのしかかる空気。人は不確定なものをひどく恐れ、遠ざけたがる。
「あたし、雨キライ」
ぽつり、と隣で寝ていた女が呟いた。
確か、かれこれ半年ほど前に街中で捕まえた女だった。綾図(あやと)の数或る女性遍歴の中では
そこそこ長く、電話やメールで呼び出せば、都合よくやってくるそんな女だった。
顔立ちは整っているが、人ごみに埋もれれば、直ぐに見失ってしまうだろう。平凡な美人といったところか。
「ふーん、そうなん?俺は好きやけどな・・・」
雨は親友を思い出せる。
すごぶる雨や水に好かれる傾向のある親友は其れを言うたびに厭そうな顔をする。
一度。たった一度だけだが、親友が自分の前で泣いたことがある。
その時、とても澄んだ蒼がみるみる翳り、たちまち大雨が降り注いだ。丁度、今降っている雨と同じ様な
救いの無いほどの雨だった。さながら昔話の様だが残念ながら本当の話である。愕然としたのはよく覚えている。
もしかしたら、泣いていたりするんだろうか。
「あたし癖っ毛の割に猫毛だからさあ、ホントやんなちゃう」
「俺は好きやけどなあ、アンタの髪」
背に流れる髪を指で透いてみると、さらりと引っかかることなく背に戻る。
人工的に染められた髪にしては随分と痛みが無く、艶もあった。
女は其れを見て、くすりと笑った。
「気づかなかった?あたし、アンタに会ってからちゃんと手入れするようになったんだから」
「また、なんでや」
ぴくり、と女の、手入れされた眉が器用に片方だけ釣り上がる。
「だってアンタ、最初に寝た時になんて言ったか覚えてる?『髪、ざりざりしてんなあ』よ。
いくらあたしでもさすがに真顔で言われたら傷つくわよ」
綾図のイントネーションを完璧に真似て、女は気の強そうな瞳を綾図に向けた。
この眼が苦手なのだ。全てを引き釣りだそうとする、この視線が。
「ねえ。なんでその仔を抱かないの。欲しいんじゃないの」
「せやけど、男やで。向こう」
「アンタがバイだってことは知ってる。友情を壊したくないとか、アンタは言いそうにないけど」
「抱いたことあるよ。しかも無理矢理・・・でも結局惨敗やった」
「・・・・・」
「憎むとか罵られる素振りも無い。全然平気やってん」
ごく普通に、前のままの関係で、親友は話しかけてきた。
怖い、という感情を味わったのは久々だった。元々、気配や感情の揺らぎが少ない方だったが此処まで来ると恐ろしさすら覚えた。
「その仔のこと、好きなの?」
「わからへん。好きやのか、嫌いなんか。それとも好きやったんか、嫌いやったんか」
だから、彼を切ることは出来ない。
では『あの時』彼を切った感情は何だったのか。
雨音はただ雑音(ノイズ)のように虚しく響いた。
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