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ゆるくだらだらとその日思考を書き殴ってます。 たまに痛い発言や小話が飛び出すこともあり。コメントはご自由にどうぞ。



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あれは過去の残像に過ぎない。








綾図がこの土地に越してきたのは、小学校から中学校に上がる時である。
元々は関西圏の出身だが、家族との不和が原因で一人やってきた。其れは俗にいう厄介払いであったけれど、毎回生活費というには多すぎる金が振り込まれているから問題は無い。


あの家族には、期待も希望も潰えてしまったから多くは望まない。



そういう環境の為か、大人びた雰囲気を持った綾図は最初からかなり浮いた存在であった。
持ちえた美貌もあってか、疎遠に扱われることが多く、友人と呼べるものもいなかった。

諦めていた。それでも、やっぱり孤独だったのだろう。寂しかったのだろう。
いつの間にか綾図は持ち前の美貌を逆手にとって近寄る女で、少女で、孤独を紛らわすようになっていた。

疎遠は更に疎遠を呼び、孤独を孕ませ続けていると知らずに。



「機織君?」


確か、昼休みであったと思う。ざわつく教室でふとそんな声が聞こえた。
声を掛けられた少女はまごまごとしており、えっと・・・とよくわからない戸惑いを見せていた。


「別に呼べと云ってるわけじゃないし、何処の席なの」


穏やかではあるが、その声には微かな苛立ちがあった。
少女が軽く此方を見ると、少年は礼をいって此方に足取りを進めた。



「アンタが機織綾図?」



その一言に、教室の空気が僅かに強張った。
暗黙の了解で、綾図は触れてはならぬ禁忌のような存在であったからだ。



「せやけど、何やろか」



見たことも無い、地味な少年だった。
髪は中途半端に長く、鴉のような漆黒で眼鏡を掛けている。無害そうだが、何処と無く鋭さが見え隠れしていた。


「夏休みの図書委員の当番シフト、紙回ってきてない?機織君だけ出してないんだけど」


そう云われ、ああそうだったと思い出した。休んでいる内に勝手に決まっていたから気にも留めなかった。


「そんなん、あったっけ」

「無いならまあいいんだけど。適当にしとく」


といって、綾図のペンを勝手に取り出してシフトにカリカリと本当に適当に書き入れだした。
見た目によらず、結構図々しいらしい。


「なあ、それっていかなあかんの」

「別に来なくていいよ。こんなの形だけでどうせ誰も来ないし」

「アンタは?」

「行くから二年なのに、先生にこんな面倒臭いシフト管理させられてるんだよ」


其れが、出会い。ほんの些細なことだった。
じゃあ、といって去る彼を数分遅れて追いかけた。



「なあ、ちょっと」

「・・・・・何?」

「俺のこと噂とかで色々聞いてるんとちゃうの」

「話し掛けるのに噂なんて一々聞く耳はないんでね。それに中途半端な物差で人を測るほうが、失礼だと思うけど」


は、と自然に笑いが毀れた。とんだ偽善者だ。何も知らない癖に。
思わず伸ばした手は、第三者によって弾かれてしまった。


「堯羽に触るな」


絶対校則違反であろう枯竹色の髪の少年が唸るように声を上げ、少年の手を引いて去ってしまった。



面白そうだ、と綾図は思った。
此処まで何かに興味を引かれたのは初めてに等しい。もしかしたら、あの無害そうな顔を無茶苦茶にしたいただの破壊衝動だったかもしれない。だから、炎天下の中、図書室に通おうとそう思った。



漆黒の髪の少年は、柊堯羽。
枯竹色の少年は饗庭階(あいばきざはし)。


これはまだ綾図が普通の人だった頃、欠落者との初めての出会いの話。




>>>>>>>>

学生時代が書きたかっただけです。
饗庭の登場はまだ先になりそうです。












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